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落語にみる吉原文化「紺屋高尾」



落語は江戸時代に成立したといわれていますが、

もともとは大名衆、いわゆるお殿様のお伽衆(話相手)が噺家の祖とされています。

その後、江戸時代もなかばを過ぎると落語はだんだんと庶民の娯楽になっていきましたが

落語には江戸の文化や風習が当時のまま語り継がれている部分も多く、それゆえ江戸文化を色濃く伝える作品が多く見られます。

吉原の廓文化にスポットを当てた作品も数多くありますが

落語に出てく女郎と言えば、「三枚起請」の喜瀬川、「品川心中」のお染など、男を手玉に取りとんでもない目にあわせる文字通りの「傾城」であることがお約束となっています。

そんな中、落語に登場する代々の高尾太夫は情に厚く、純粋な心を持った美女として描かれることが多い。

高尾太夫は代々吉原の名妓で、歌舞伎十八番「助六」でおなじみの三浦屋の抱え女郎ですが、

美貌と高い品格と文芸に秀でた教養、才色兼備で武家のお姫様にも劣らぬ女性、太夫は江戸の理想の女性像とされており、落語の世界でも情に厚く純粋な人物像として描かれたのです。

6代目三遊亭圓生や7代目立川談志も得意とした

「紺屋高尾」(こうやたかお)という噺も

身分違いの恋をした紺屋(染物屋)の職人が一途な恋心を高尾太夫に打ち明けるくだりが涙を誘う人情物語です。

当世飛ぶ鳥を落とす勢いの三浦屋の高尾太夫の道中を見て恋患いとなった染物屋職人の久蔵は、何を見ても高尾太夫に見えてしまい遂には寝込んでしまいます。

親方とお医者様のアドバイスを受けお金を貯めて高尾に会いに行くことにした久蔵は

それから三年、一心不乱に働いて、入ってくるお金はすべて貯金に回し、遂には十両を貯める。

このお金を持って遊びに行ければいいのだが、突然乗り込んでいっても会えるわけがない。

  当時の遊郭はお金を払えばいいというものでは

  ありませんでした。

  まず引手茶屋というところで花魁を紹介して

  もらうのですが

  茶屋は客の人となりを見極めて客に似合う花魁

  を紹介するのです。

いくらお金を積んでも、紺屋職人では高尾が相手にしてくれません。

そこで、帯や羽織もみな親方が揃え、久蔵をお大尽(金持ち)に仕立て上げたのです。

さて、三浦屋。

久蔵が高尾の部屋でドギマギしていると高尾太夫がしずしずと登場。

少し斜めに構えて、煙管で煙草を一服つけると「お大尽、一服のみなんし」。

初会では客に肌身は許さないから今日はこれで終わり。

  「初回」とはお客が花魁に初めて会う日のことで、

  花魁を迎えるため客は、太鼓持ちや芸者を呼び、

  宴を催さなければなりません。

  そして客であるにも関わらず下座に座り、

  上座を空けて花魁を待つのです。

  やがて花魁がお付きの者を従えて登場しますが

  落語にあるように斜めに構え威風堂々、

  ほとんど動かずろくに会話もありません。

  実は花魁には客を選ぶ権利があり、初会とは

  花魁が自分にふさわしい客かどうか見定める

  ものでした。

高尾が型通り「今度はいつ来てくんなます」と訊ねると、感極まった久蔵は大泣きした挙句、

自分の素性や経緯を洗いざらいしゃべってしまった。

「ここに来るのに三年、必死になってお金を貯めました。今度といったらまた三年後。

その間に、あなたが身請けでもされたら二度と会うことができません。ですから、これが今生の別れです…」

高尾の方も、久蔵の指先を見て嘘に気がついていたらしい。怒られるかと思いきや、高尾はなぜか涙ぐんだ。

「源・平・藤・橘の四姓の人と、お金で枕を交わす卑しい身を、三年も思い詰めてくれるとは、なんと情けのある人…」

自分は来年の三月十五日に年季が明けるから、その時女房にしてくんなますかと言う。

晴れて夫婦となった久蔵と高尾は染物屋として繁盛してゆくというお噺。

この人情噺しは実際のお話を元にしており、

神田お玉が池の紺屋九郎兵衛に嫁した五代目高尾太夫がモデルだそうです。

駄染めと呼ばれる量産染色の手拭を夫婦で考案し、この手拭は当時の遊び人の間で流行したと伝わっております。のち3人の子を産み、80歳余まで生きたそうです。

人情噺しの中でも人気が高く4度にわたって映画化もされているこのお噺し「紺屋高尾」

落語家 三遊亭金馬いわく

「吉原って『紺屋高尾』のお話の中にも出てきますけどね…。まるで夢のようなきらびやかで美しくて願いがかなうところが『紺屋高尾』の面白いところ…。」

だそうです。

進士 素丸

#落語

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